
モバイルアプリ開発の技術進化は、驚異的なスピードで進んでいます。近年では、1つのソースコードで複数のOSに向けたアプリ開発が可能となるクロスプラットフォーム技術の普及で、開発スピードの向上とコスト削減が加速。さらに生成AIの台頭により、開発プロセスそのものが大きな変革の時代を迎えています。
ジークスでは、効率的で柔軟な開発を実現するため、モバイルアプリの開発環境としてクロスプラットフォームであるFlutterを採用しています。今回は、ジークスベトナムのエンジニア・高越が、Flutter導入の背景とモバイルアプリ開発の未来について語ります。
市場からの要望に応える手段としてFlutterを採用
こんにちは。ジークスベトナムのエンジニア・高越です。私がモバイルアプリの開発に携わり始めたのは、今から約20年前。まだ「ガラケー」と呼ばれる携帯電話が主流だった時代です。現在はスマホアプリの開発が主流となり、当時と比べると開発スタイルが大きく変わりました。
まず、開発に求められるスピードが格段に早くなりました。と同時に、コスト削減への要望も高まり続けています。これらは、今後も加速することが予想されます。この流れに対応するために、私たちが選択したものが、今回メインでお話しする、Google提供のモバイルアプリ開発環境「Flutter」です。
一方、技術面において大きな影響が生じているのが、生成AIの登場です。現在のアプリ開発では、いかに生成AIを活用するかが重要なトレンドとなっています。現在、私たちが使用している開発環境の多くは、将来的には生成AIに置き換わるかもしれません。それほど、生成AIの進化は目覚ましいものがあります。
クロスプラットフォームが、開発時間の短縮とコストの削減をもたらす
Flutterは2018年12月にリリースされました。Googleが開発したこともあり、リリース当初から注目していて、将来的に「来る!」と感じていました。ただ、バージョン1の段階ではまだ使いにくい部分もあったため、しばらく様子を見ることにしました。
2021年3月にリリースされたバージョン2では、開発できる範囲が広がり、コミュニティも活発化して情報も充実してきました。BtoB・BtoCどちらのアプリにも対応できる環境が整ったため、「これならいける」と判断し、導入を決断しました。
Flutterの大きな特徴は、1つのソースコードでiOSとAndroid、2つのOSに対応したアプリを作成できる「クロスプラットフォーム」である点です。ちなみに現在(2025年3月時点)、Flutterは3つのOSに対応しており、最大3つのOS向けにアプリを提供できます。
通常、ネイティブでモバイルアプリを開発すると、iOSとAndroidそれぞれに1つずつ、合計2つのソースコードが必要です。しかしFlutterを使えば、1つのソースで両OSに対応したアプリを同時に開発できます。必要なソースコードが2つから1つになるので、(単純に1/2とはなりませんが)開発時間やコストが大幅に削減できます。さらに、保守・運用にかかる時間やコストも同様に削減できます。
加えて、Flutterには開発スピードを向上させる「ホットリロード」という便利な機能があります。通常、ソースコードを変更した際の動作確認にはビルドが必要ですが、Flutterではホットリロード機能によってビルドせずにリアルタイムで変更結果を確認できます。
このように、Flutterは開発効率の向上、開発時間の短縮、そしてコスト削減を実現します。私たちの現場では、OSごとに開発する場合と比べて、全体のコストを40%ほど削減することに成功。これは私たち開発者にとっても、そしてご依頼いただくお客様にとっても、大きなメリットです。冒頭でお話ししたように、将来的にはモバイルアプリ開発の主流が生成AIに移行する可能性がありますが、少なくとも現時点では、Flutterが最適な開発環境であると私たちは確信しています。

導入から4年が経過 モバイル開発環境はFlutter一本に
私たちがFlutterを導入してから、約4年が経過しました。導入当初は、ネイティブ開発の経験が豊富なメンバーを中心に開発体制を構築。Flutterは、モバイルアプリ開発の経験があれば、それほど苦労することなく習得できます。そのため、特別な勉強会を開催することもなく、すぐに開発に取り掛かることができました。
経験豊富なメンバーが実践を通してノウハウを蓄積し、それを若手メンバーへ共有する。そうした流れの中で、徐々にFlutterの利用が浸透していきました。現在では、チームメンバー全員がFlutter一本で開発を行っています。
あえて苦労した点を挙げるとすれば、導入当初はまだコミュニティが発展途上で、世の中に流通している情報が少なかったことくらいでしょうか。しかし、私たちのメンバーは新しい技術に対する好奇心が旺盛で、情報収集にも積極的だったため、大きな障害とは感じていませんでした。
最近ではFlutterの利用者が増え、コミュニティも充実してきています。Googleも積極的に情報を発信しているため、情報不足に困ることはありません。「全世界のクロスプラットフォームを用いたモバイルアプリ開発者の42%がFlutterを使用している」という調査結果もあり、Flutterが優秀で将来性のある開発ツールであることがうかがえます。
生成AIの進化がもたらすカオスな時代 エンジニアに必須のスキルとは
私たち開発チームの案件は、現在順調に進んでいますが、改善の余地があるとすれば、自動テストの精度向上です。ここを強化し、より高品質な状態で検証作業が行えるようになれば、今以上に開発効率を向上させることができると思っています。
さらにその先については、正直なところ「まったく読めない」というのが本音です。モバイルアプリはもちろん、ソフトウェア開発全体が、生成AIの進化で大きく変化する可能性が高いですが、どのように変化するかは、現時点ではまったく読めず、まさに混沌とした時代に突入したと感じています。
そのため、まずはFlutterを活用した開発のなかで生成AIを効果的に取り入れ、開発効率と品質を向上させることに注力しなければなりません。そして、1〜2年が経過し、将来の流れが少しずつ読めてきた時に備えて、知識やノウハウを蓄積し、素早く対応できる体制を整えておくことが重要だと考えています。
今後、あらゆる分野で生成AIの導入が進むでしょうが、開発の分野ではその速度が速くなっていると感じます。今後のエンジニアにとって、生成AIを使いこなすスキルは必須です。生成AIをどう活用していくのか、それは個人だけでなく、チームとして、そして会社全体として取り組むべき課題です。メンバーが安心して働ける環境を維持するために、生成AIとの向き合い方やサポート体制について、常に模索し続ける必要があります。

変わることを恐れずに「常に先を見る」アプリ開発を目指す
今後も、Flutterのような新しい開発ツールは次々と登場してくることでしょう。一方で、新しいツールは実績も情報も少ないため、取捨選択の判断に迷うケースもあるでしょう。しかし、いつまでも迷っていては、この流れに取り残されてしまいます。自分たちの中で「これだ!」と思えるものがあるのなら、それを信じて挑戦する覚悟が必要です。
もし、その選択が時代の潮流から外れていると感じた場合には、他の選択に変更する柔軟性も求められます。一度決めたことを変えるのは、最初の選択以上に難しいものです。ただ、かつてと比べればツールの変更で開発現場に生じる混乱は少ないので、その点についてはあまり恐れなくても大丈夫かと思います。
開発ツールが変わっても、アプリ開発という観点では本質的な違いはなく、その差はモバイルアプリの開発経験があれば数日で慣れる程度です。実際、私たちがFlutterを導入した際も、短期間でスムーズに切り替えることができました。
現在、私たちはFlutterをメインで使用していますが、より優れたものが登場すれば、切り替える可能性は十分にあります。「変化を恐れない」、この混沌とした時代を生き抜くには、その精神が不可欠です。
ジークスのビジョン(企業・組織の理想像)に「常に先を見る創造的なITラボ」という言葉があります。時代の流れに取り残されないために、常に先を見据え、少しでも先取りしていく。そして、お客様に「常に先を見る」アプリケーションを提供する。私たちは、その目標に向かって進んでいきます。